ある日突然、運命の人が現れて人生が変わるというのは本当である。

カルフォルニアに移ってちょうど二か月目のときだった。その当時、私はMarina Del Rey (マリナ.デル.レイ)というところに住み始めたばかりだった。その頃のマリナ.デル.レイは、今とは違って静かで住人も少ない小さなシティだった。ほとんどがアパートメントの住人で、大きなヨットハーバーがあることで有名だ。

私はとにかくカルフォルニアのからっとした青空とビーチが好きだった。それだけで前向きになれる、そう思っていたのに、だんだんと日がたつにつれて、迷いが出始めた。私がアメリカへ移った選択は正しかったのだろうか、というかもう戻れない。今まで散々身勝手だと言われてきた。こんな私だから年老いた親はさぞ心配していることだろう。

でも、GOD。この内から突き動かされるものだけを頼ってここまできた。だから、GOD。あなたが私を破滅に導くわけがない。どうか、私をガイドして。あなたの運命に従うには、私だけの狭い判断力ではどうしようもない。そう祈りながらヨットハーバーを歩いていたときだった。

あるベンチが目にとまった。木製のベンチが、まるで私にウインクしたように感じたのだ。あたりを見渡すと、誰もいなかった。ひとりで瞑想でもするかと腰を下ろした。目の前の景色は真っ青な海と真っ白なヨット、目の前をカモメがよぎったときだった。

“It’s beautiful day.” (天気の良い日だね。)

私に話しかけているのか、ひとりで喋っているのか、どうこたえを返したらよいのかわからずに横を見ると、グレイヘアのアメリカ白人の紳士が立っていた。いつの間にきたのだろう。さっき見渡したときには誰もいなかったのに。

彼の目つきは悪かった。私は彼に睨まれているのだと思った。だからすぐに目をそらした。もしかしたら、彼はベンチを占領したいのかもしれない。おどしをかけて私に立ち退いてもらいたいのだ。でも、ベンチってみんなのものだよね? あれこれ考えていると彼は私の横にすとんと座った。

” Do you like a boat?” (ヨットは好きかい?)

“……yeah.”(そうですね。)

彼の声に懐かしさを感じた。年齢のわりには若く、ずっしりとした影響力のある声。その声から彼がどんなに大胆な生き方をしてきたかがわかる。いろんなことがあったんだなと思った。そしてずっと聞いていたいと思った。

相変わらず目つきは悪いが、これが彼の普段の表情なのだろうと思った。彼は典型的なアメリカ人とは違い、表情を豊かに表現する質ではなかった。どちらかというと無表情でじっと話し相手を見る。絶対に下手にのらない。姿勢を崩さない。

それから彼はヨットの話を少しして、私にたずねた。

“Are you Korean?”(韓国人?)

“No, I’m Japanese.”(日本人よ)

彼にとって韓国人も日本人も同じ、という感じだった。

“I’m BILL.”(ぼくの名前はビル。)

“I’m YUKIKO.”(ゆきこよ。)

ビルは慣れない発音でユ, キ、コと言った。遠くでビルの友人が彼のことを呼んでいた。ビルは行かなきゃとでもいうように立ち上がった。私も立ち上がった。

そして彼は私にこう言った。

“Are you coming back tomorrow?”(明日もまたここに来るの?)

私はしばらく考えてこう言った。

“Maybe.” (たぶんね。)