ビルは大学を出ていない。16歳で父親を亡くしたビルは高校時代もろくに勉強する暇がなかった。しかし、夫はものすごく頭の回転が早かった。会話が好きでジョークがナチュラルで、どんなときだってずしんとした態度。人を飽きさせない何かがあった。この私でさえ毎日が新鮮と驚きであった。それから夫は自分の知っていることは出し惜しみなくシェアするという考えがあった。だから人に裏切られたり、損をしたことは幾度もあった。その経験から夫はこう言った。
“Business is not always fair.”(ビジネスはいつだってフェアじゃない。)
だから心配しないで大丈夫、と言ってくれた。ビジネスを数字だけで見ると、いつだってもっと貰うべきだった。という結果で終わることが多い。ビジネスの利益は金額だけではないことを夫は知っていた。長い目で見ると最終的にはフェアだったと言える日がくるのだろう。健康や結婚、家族、プロテクションという他の分野で返ってきたりする。ビジネスを楽しむ気持ちと目的を忘れては、お金の奴隷になってしまう。お金の奴隷とは、お金さえあればいいという生き方である。そしてお金を失くすことへの心配から一生逃れることはない。お金だけが信頼できる友となり、いつか裏切られる。お金がすべてだと思っていたら、お金では解決できない問題がやってくる。お金を持つことに全く問題はない。むしろこの世界はお金なしには生きられないシステムである。しかし、お金に人生のすべての決定権を与えると、あなたはお金の奴隷である。朝起きてお金のこと、そしてなくてもあってもお金のことを常に考えている狭い檻の中の生活。でもその檻にはカギは掛けられていない。あなたはいつだって立ち去ることができる。